
よく「着物は一生モノだ」という言葉を聞きますが、果たして本当に一生着れるのか?着れるとしたらどういう種類の着物なら一生モノなのか?本当に買う価値があるのか?など、疑問に感じたことはありませんか?
私はただの着物好きなので専門的な見解は難しいですが、自分自身に照らし合わせて身近なところで考えてみました。
「一生着れますよ」は呉服屋さんのセールストーク?
何十万円もする着物を購入しようかどうか悩んでいたら「着物は一生モノなので決して高くないですよ」と言われたという話をよく見聞きします。仮に20代後半で着物を購入して80歳までの生涯とすると、ざっと50年は着れるということになりますが、果たして本当なのでしょうか。
私は自分で作った着物は夏用の着物と帯をそれぞれ1枚ずつと道行を1枚のみで、あとは全て母や祖母から譲り受けたものを仕立て直ししています。
下の写真は母が20代の時に祖母に誂えてもらった着物を私サイズに仕立て直しをして着ているものです。
- 赤の鮫小紋
- ピンクの小紋
- 訪問着
- 付け下げ訪問着
着物好きだった祖母と違い母は昔着物をほとんど着なかったことと、着物も桐ダンスで保管され通気性をよくしていたことなどもあり、購入から30年以上経過しても着物の状態は非常に良いままでした。写真の帯も全て譲り受けたものですが、今着ていても素敵だなと思えるデザインばかりです。
さて一方で、私が上の写真の着物を一体いくつまで着れるだろうか?ということも考えてみたいと思います。母が若い娘時代に作っているものなので、色はピンク・赤・オレンジがとにかく多く、小紋や訪問着は柄が華やかなものが多いのです。20代30代のうちは一番似合う時期だと思いますし、40代も半ばくらいまで大丈夫かな?と思ったりしますが、50歳を過ぎたらちょっと厳しそうです。洋服と同じように、着物にも年相応の似合う色や似合う柄はあって当たり前ですよね。
次に、下の写真は今度は祖母から譲ってもらった着物を仕立て直したものです。母の着物に比べると、祖母が50歳を過ぎてから作った着物ということもあり落ち着いた色合いや柄が多いです。このあたりの着物はお婆ちゃんになって着てもきっと素敵だと思うので、一生大事に着ていきたいと思っています。
- 青の色無地
- ベージュの色無地
- 水色の紬
- 紺の紬
母から譲ってもらった着物も祖母から譲ってもらった着物も購入から20〜30年ほど経過していますし、自分用に仕立て直してから少なくても10年、ものによっては大事に着ながら20〜30年以上着ようと思っていますので、その点では優に50年を超えて着れるということですね。
「着物は一生モノ」はあながち間違えではなさそうですが、そもそもの着物の品質、メンテナンス、色柄などは考慮する必要がありそうというのが私なりの答えでした。
「一生モノ」は本当に正解なのか?!
では、着物を買うときに後々後悔しないためにはどうした良いのでしょうか?まず長い間使うためには、クリーニングや風通しなどのメンテナンスは充分にすることを前提にすると、考えるポイントは①着物の素材、②色柄、③着るシーンや頻度の3つなのかなと思います。
①着物の素材
私が祖母や母から譲り受けた着物は全て正絹です。最近は「洗える着物」で人気のポリエステル着物の品質が上がり、素人目には正絹との差がわからないほどとも言われていますが、洋服と同様に洗濯機でジャブジャブ洗えるものは便利な一方で長持ちはしづらいですよね。木綿の着物も同じことが言えると思いますので、利便性を追求するのか、品質を追求して長持ちさせるのかは着る人の目的次第だと思います。(そもそも40〜50年も持たなくていいから利便性の高いものが良いという場合もあります。)
②色柄
洋服と同じように、似合う色柄は最も年齢に左右される部分ですよね。若い女性が華やかな着物を着てるとこちらの気持ちまで明るくなりますし、大人の女性が上品な着物を着ていると、周囲の雰囲気まで和やかになります。1枚の着物を長い間着たい場合には、その中間の少し落ち着いた色や柄を選ぶのが正解かもしれません。
③着るシーンや頻度
着物を購入するのに最も考えた方が良いポイントは、実は③かもしれません。必ずしも長く着ることだけに捉われず、その着物をどのシーンで着てどのくらいの頻度で着れて、それに対していくらお金を払うのかと考えるのが一番納得感もあり失敗しない購入の仕方のような気がします。
例えば、以下のようなシーンであれば何十万円の着物を購入しても決して高くは感じないかもしれません。
- 華やかで綺麗な色の小紋を30歳で購入。2〜3年に1度くらいの頻度で15年ほど大切に着た後、成長した娘に譲る。
- 華やかな柄の訪問着を20代後半で誂えて、親族や友人の結婚式には全てその訪問着で出席する。(季節は選びますが)
- 少し落ち着いた色無地の着物を20代で購入し、年齢に応じて帯で全体のバランスを調整していきながら1枚の着物を長く楽しむ。
逆に、以下のようなシーンであればワンピースやスーツ感覚で数万円の洗える着物やリサイクル品で揃えていくのも賢い方法だと思います。
- 記念日ディナーや旅行先、女子会ランチなど和服が似合うお出掛け先に気軽に着ていく着物を購入して、頻度高く気兼ねなく着ていく。
- 子供のライフイベント(七五三や入学式・卒業式)などに着ていく着物を誂える。(この場合はレンタルの方が安いかもしれないですね)
一言で洋服といってもファストファッションからブランド品まであるように、着物にもリーズナブルなものから超高級品まで幅広くあります。一生モノの高い正絹の着物だけを重宝するのではなく、それぞれのニーズや好みに合った着物の楽しみ方を見出せるのがベストなのかなと感じました。
ちなみに私の今一番の楽しみは、祖母から譲ってもらったこの色無地を、来週末の歌舞伎に着ていくことです!仕立て直してから初めて着てお出掛けするので、今からワクワクしています。年齢に合わせてこの色無地に合わせる帯を変えていくのもまた楽しみの1つです。
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